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「メラビアンの法則」と遠隔コミュニケーション

この記事はコミュニケーション Advent Calendar 2016 - Qiitaの16日目の記事です。

昨今では、リモートワークなど多様な働き方が盛んになってきてますし、遠隔でのコミュニケーションに興味がある方も多いのではないかと思います。自分も、会社の拠点が東京と京都に離れていて、日常的に遠隔地のメンバーと働いている立場ですので、その難しさについては実感するところが多いです。

さて、遠隔地でのコミュニケーションはチャットやグループウェアなどテキストが主体になりますが、それに対して、実際の難しさ以上に、どうも世間からの理解が乏しいように感じています。「メールやチャットでは伝わらない、会わないとわからない」さらに「だから遠隔で働くのは難しい」そういう人がまだ多い。

そういう感覚の裏付けとして「メラビアンの法則」の俗流解釈が引用されることがあるので、今回、タイトルに取り上げました。

ビジネスセミナーなどでコミュニケーションがテーマになった時に「メラビアンの法則」として「人間は、言語情報が7%、口調や話の早さなどの聴覚情報が38%、見た目などの視覚情報が55%で影響を受ける」という説が紹介されたりします。それをもって「テキストでは7%しか伝わりません」というのです。

しかしそれは間違った解釈です。本来、メラビアンさんが行なった実験は「矛盾したメッセージが発せられたときの人の受けとめ方について、人の行動が他人にどのように影響を及ぼすか」というものです。そういう場合「言語情報が7%、口調や話の早さなどの聴覚情報が38%、見た目などの視覚情報が55%」で影響されるというのが本来の「メラビアンの法則」です。

メラビアンの法則 - Wikipedia


具体的には「笑いながら怒る」「嫌な顔をしながら褒める」みたいなシチュエーションで、被験者がどの情報を優先してメッセージを受け取るか、という実験の結果です。

それなら腑に落ちると思いませんか?

笑いながら怒られたら「あ、本心は怒ってないんだな」と思うでしょうし、渋い顔をしながら褒められたら「イヤミなのかな」と思うのは、ごく自然な感覚です。

それなのに、けっこうちゃんとした母体が運営するビジネスセミナーでも「テキストでは7%しか伝わらないので、メールではダメです。会って話をしましょう」とか言う講師がいるのです。遠隔コミュニケーションが必要な現場にそういう感覚を持ち込むと、常にビデオ会議に拘束されることになって非常に効率が悪くなり、出張代も大変なことになります。

実際には、フラットな情報であればテキストでも明快に伝わりますから、俗説は無視しましょう。

ところで、あまり指摘する人はいないのですが、この実験結果は、むしろ対面コミュニケーションの弊害を明らかにしています。

例えば、笑いながら怒っている場合、必ずしも「本心は怒っていない」という局面ばかりではないと思いませんか。本当に深刻に怒っているのに、相手の不興を買いたくなくて笑いながら伝えてしまったり、そもそも怒りが顔に出ないタイプだったり。これは結構ありがちなことではないでしょうか。

「伝える時の見た目や口ぶりのせいで、間違ったメッセージが伝わってしまう」というのであれば、それはわりと深刻な問題です。*1さらに、正確なログも残りづらいことも相まって、理解したつもりが、なんとなくうやむやにしか伝わっていなかったということにもなってきます。

ということで、テキストコミュニケーションは、よく言われるような

  • ログが残るので時間や場所の制約がない
  • 低コスト(移動しなくていいし簡単なシステムで実現可能)

という利点の他に

  • 表情や身振り、口調に左右されずに客観的な事実ベースで話ができる

という点でも、実は優れていると考えることができそうです。

その一方、テキストでは感情が伝わりづらいという問題点はありますが、客観的な事実ベースのやりとりだけで問題なく遂行できる業務も多いし、さらには「業務である以上、感情的な要素を持ち込まずにやりとりをするべき」というのも、テキストコミュニケーションに最適化していくにあたっては一つの合理的な方法でしょう。

しかし、それですまないのがコミュニケーションの難しいところです。人類はまだそこまで進化してないので、どうしても感情面でこじれたり、こじれそうになる時はあると思います。そういう時には、もう少し情報量の多いコミュニケーション方式に移行したほうが良いということになります。

昔の話ですが「チャットの議論が10分超えたら電話をかける」というルールを作っていたことがあります*2。今は、ビデオチャットに移行していますが。

経験上、感情面でのずれが生じてしまった場合には、一生懸命テキストで感情を伝えようとする努力は逆効果になりがちです。基本的には伝わらないものと考えて、コミュニケーション手段を変えたほうがしこりが残りにくいようです。

また、感情のぶつかり合い以前の、明文化できないような「伝わるでもなく伝わる気持ち」みたいな領域を共有するのも意外に大事で、親睦のために遠隔メンバーと会うとか、雑談をメインとしたビデオチャットをするというのは、たぶん一般的に世間で思われているよりも、とても有益です。

逆に業務にかかわることを、対面で議論する場合は、相手の顔を見て話したことで安心せず、その場にいない人でもわかるようなアジェンダや議事録といったテキストの形でログを残していくことを心がける必要があります。

私は、昔から「利害が一致していて、たいてい同じ前提条件で仕事をしている同部署のメンバーは離れていても大丈夫だけど、利害が相反する部署とは近くにいるほうがいい」みたいな仮説を持っています。同じ部署のメンバーが異拠点にバラけている状況は特殊かもしれませんが、業務上ぶつかりやすい相手や部署と離れた場所で働いているというケースはわりとあるでしょう。そういう時には、相手が遠隔地であっても意識的に対面で話す機会を作ってみると良いかと思います。

最後に、これは、さんざん失敗してきた自分なりの結論として受け取っていただけると嬉しいのですが、もし、テキストコミュニケーションで腹が立つことがあった場合、相手の本心を知らずに腹を立てている可能性があるので、ちょっと冷静になるべきです。特に、仕事の場では、双方が同じ目的の組織に所属し、目標を共有して働いている以上、相手に対する怒りには、必ずどこかで矛盾というか感情面でのズレがあると思っていいと思います。テキストでの「議論」はいいんだけど「喧嘩」になったらちょっと冷却しましょう。

同じ理由で、テキストでは怒りを表明しないほうが良いです。どうしても腹に据えかねる時もあるでしょうが、そういう時には、むしろ、ログの残らないところでクッション役になってくれる人相手に愚痴るとか、そういうほうが建設的だったりもします。その場にいた第三者が情報を整理してくれることによって、最終的にテキストでも伝わるような形で問題点を指摘できたりもしますから。

*1:ということで「見た目が9割」というのは間違ってないとも言えます。「いくらいいことを言ってても、見た目が伴ってなかったら伝わらない」ということですから。

*2:正直、音声のメリットはほぼないと思います。資料のポインタを示すという点において致命的な弱さがあり、電話でやりとりできる情報はあまりにも少なすぎます。それでも口調という情報が加わるだけで随分ましだったのです